1.自分の社名に差止請求?
ある法人Aのお話です。
法人Aは平成17年9月に都内で開業し、数年間営業努力を重ね順調に業績を伸ばしてきました。
ところが平成22年になり、突然、社名の使用の差止と損害賠償を請求する裁判を起こされてしまいました。
根拠となった商標権は、Aの開業後の平成17年の11月に出願され、翌年の6月に登録されています。
原告は、個人である商標権者Bと商標権者から独占的通常使用権のライセンスを受けた関西にある法人Cでした。
その法人Cが、その登録商標を使用し始めたのは、平成18年の2月です。
その裁判でAは1審で敗訴し、2審の途中で1審での認定額より多い賠償額で和解することになってしまいました。
また、個人経営で平成11年11月から開業していたDに対し、平成18年5月に出願し翌年の6月に登録された商標権に基づいて、法人Eから屋号の使用停止を求める内容証明郵便が届いた件もあります。
使用停止を求められたのは平成23年のことです。
Eの商標登録出願時に、Dは6年半ほど屋号を使用しており、使用停止を求められた時点では約12年も経っていましたが、やむなく平成24年1月に屋号を変更することになってしまいました。
確かにAの件も、Dの件も、登録商標との類似、指定商品・役務との同一性から、形式的に商標権の侵害は成立します。
けれど、自分の方が早くから使っていたのに、また、そもそも自分の営業主体の「名称」であったにもかかわらず、他人の商標権を行使されてしまったのでは何故でしょうか。
2.商号と商標の関係
起業する際に、個人商店であろうが、法人であろうが、必ず「商号」は使用することになります。
法人で起業する際には、会社の登記を行いますが、その際の会社名が「商号」となります(会社法6条1項)。
新会社法の施行に伴い、他人が登記した商号を同一市区町村内において同一の営業のために登記することができないという規制(旧商法第19条、旧商業登記法第27条)は廃止されました。
他人の登録を排除する効力としては、登記した商号と同一であり、かつ、その営業所の所在場所が同一である場合という、狭い範囲にしか及びません(商業登記法27条)。
他人の使用を排除する効力としては、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用した場合に、差止請求ができます(商法12条)。
また、他人の商号として周知なものと同一又は類似の商号を使用等して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為は、不正競争として差止の対象となります(不正競争防止法2条1項、3条1項)。
つまり、商号の場合は事前的(登記)効力を生かして他人の使用を差止めするためには、他人に「不正の目的」があることを立証することが必要です。
不正競争防止法の場合は、あくまで事後的な措置となり、基本的には裁判所の判断を仰ぐことになります。まず自己の商号の「周知性」の立証、そして「混同」の立証が必要となります。
登録商標であれば、出願し審査を受けて設定登録された場合は、その段階で権利が保証されます。
他人の登録を排除する効力としては、登録商標同一又は類似の商標であって、その商標登録に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務について使用をするものは、登録を受けることができません(商標法4条1項11号)。
他人の使用を排除する効力としては、登録商標と同一又は類似の商標であって、その商標登録に係る指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務について使用をすると侵害となり(商標法25条、37条1号)、差止の対象となります。
つまり、事前的(登録)手続きだけで、「不正の目的」や「周知性」、「混同」を立証する必要もなく、商標と指定商品・役務の類似範囲まで差止めすることができるわけです。
そして、効力範囲は日本全国に及びます。
3.先使用権などが認められない場合とは
前項で述べたとおり、従来は旧商法第19条と旧商業登記法第27条により、自己の商号と類似の商号が同一市区町村内において同一の営業のために登記されてしまうことはありませんでした。
しかし、改正後は自己の登記した商号と同一であり、かつ、その営業所の所在場所が同一である場合以外は、たとえ隣のビルであっても登記されてしまいます。
また、それに伴い後から商号登記した他人が、先に商標登録出願をした場合、自己の商標としては未登録の商号が、隣接県で周知性を獲得しているレベルでなければ、他人の商標が登録されてしまい、場合によっては使い続けてきた商号を使用できなくなる場合があるのです。
商標の場合、先使用権(商標法32条)は、他人の登録商標の出願前に隣接県レベルの周知性を獲得していなければ認められません。
この立証は、実際はかなり困難であり、その手間と費用は商標登録にかかる手間と費用の何倍にもなるのが普通です。
また、商標法26条に商標権の及ばない範囲として「自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」が定められていますが、例えば、会社名から「株式会社」をはずした表記は「略称」となってしまい、26条で保護を受けるためには「著名」であることが必要となります。
商標なら、「株式会社」抜きで登録することができます。
「著名」であることは必要ありません。
これから起業なさる皆様が、順調に業績を伸ばした後で、後出しじゃんけんに負けるような形で、社名、店名、商品名などが使えなくなると、信用回復にはたいへんな手間と費用がかかります。
また、後出しじゃんけんではなく、起業前に考えている社名と類似の社名などが、既に同業者によって商標登録されている場合もあります。
この場合は、営業を開始するとともに、商標権侵害状態が始まってしまいます。
そして、順調な業績を積み上げた何年後かに、他人にその果実を摘み取られてしまうかもしれません。
起業はたいへん忙しいものですが、社名の事前調査も含めて、商標登録出願をご検討なさることをおすすめいたします。
4.費用について
印紙代は、出願の際に1出願につき3,400円+指定商品・役務1区分につき8,600円、登録の際は指定商品・役務1区分につき37,600円(10年分)です。
弁理士を代理人として出願する場合は、別途手数料がかかります。
私どもでは、起業家や知的財産権に不慣れな中小企業向けに、手数料のサービスパックをご用意いたしました。
この機会に是非ご利用ください。
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