2013年9月17日火曜日

本名と商標-「加護亜依」商標を考える-

1.商標登録第5287159号「加護亜依」
 日刊スポーツ(nikkansports.com2013年8月21日8時34分)の記事からです。
 
「加護亜依」商標登録済みで本名使えず!?
 元モーニング娘。の加護亜依(25)の活動再開について、前所属事務所側が20日、「加護亜依」の名前を既に商標登録しており、その名前で活動した場合、道義的責任を追及する考えがあることを明らかにした。
 加護は新事務所のもとで活動再開すると発表しているが、前所属事務所関係者はこの日、名前を09年12月11日に商標登録しており、19年まで有効と主 張した。「加護亜依」は本名で、芸名として使用することは問題ないと一部で報じられたが、関係者は「商標登録時点で加護は母方の池田姓を名乗っており、本 名ではなかった」と反論。さらに11年に池田から突然、父方の加護に姓を戻したと説明した。加護が当時一部メディアに移籍を明言した経緯もあり「事務所を 飛び出した後に姓を戻し、本名だから商標登録に関係なく使えるというのは筋が通らない」としている。
 今後、加護を起用したテレビ局などに対して「道義的責任を追及したいので、芸名の使用料を請求する」とも話した。
 
 登録状況を確認してみます。
 
 【登録番号】 第5287159号
 【登録日】 平成21年(2009)12月11日
 【出願日】 平成21年(2009) 2月17日
 【標準文字商標】 加護亜依
 【権利者】
 【氏名又は名称】 株式会社メインストリーム
 【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
 41類 演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,歌唱の上演,ダンスの演出又は    上演,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作     又は配給,放送番組の制作,(以下略)
 前所属事務所関係者の述べた通り、確かに商標権は存在しています。
 さて、では上記の記事を読んで、違和感を疑問を感じた点について考えてみます。
 
2.商標の「使用」についての本名と商標権の関係
 商標権の侵害とは、使用権原のない他人が、登録商標と同一又は類似の商標を、その指定商品又は役務(サービス)と同一又は類似の商品又は役務に使用することを言います。
 しかし、その例外規定として、商標法26条1項1号には以下の規定があります。

 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、及ばない。
 一  自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
 
 加護亜依という名前は、彼女の「現在の」本名だそうですから、この規定によれば「普通に用いられる方法」で使用している限りは、商標権は及びません。
 ただし、テレビ局は彼女本人ではないので、番組に彼女を起用した場合に、商標としての使用をすれば、侵害の可能性があります。
 とはいえ、出演者名としてテロップやスーパーインポーズに普通の書体で表示するだけならば、それは商標としての使用(商標機能の発揮)であるのかどうか、微妙なところです。
 
 商標の「使用」に該当するためには、その使用態様により、商標の「機能」が発揮されていなければなりません。
 商標の機能とは、自他商品・役務の識別力その商標が使用される個性化された一群の商品または役務が、他の商品群または役務群から識別できること)を前提とした、下記の3つの機能をいいます。
 
(1) 商品または役務の出所表示機能(誰が、どこの会社がその商品・サービスを提供して  いるかがわかること)。
(2) 商品または役務の品質保証(その商標が付された商品・サービスは、一定の品質が保証 されていると認められていること)。
(3) 広告・宣伝機能(その商標が付されていることを手がかりとして、その商品を購買する、ま たはそのサービスの提供を受ける意欲を起こさせること)。
 
 あくまで、上記の登録された指定役務についての、上記の機能の発揮でなければ、侵害には該当しません。 
 
 ところで、商標法26条には第2項があり、以下のように規定されています。
 前項第一号の規定は、商標権の設定の登録があった後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。
 商標登録後に、その商標の信用にただ乗りして、自分の本名を使用することはできません。
 登録後の改姓がこれに当たるのかどうか。
 これも微妙なところです。
 
 ところで彼女は結婚していますが、お相手の男性が加護姓に入っているそうです。
 
3.登録についての本名と商標の関係
 ところで、勝手に他人の本名を商標登録できるのでしょうか。
 商標法4条1項8号に、他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の 承諾を得ているものを除く。)は商標登録を受けることができない、という規定があり、本人の承諾なしに勝手に登録を受けることはできません。
 ただ、当時は本名が池田姓だったということで、「承諾」を得る必要がなかったので、無事登録を受けられたのだと思います。 
 
 現在の商標権の存続期間は、19年2月11日までですが、更新の申請を行えば、さらに10年延長することができます。
 更新の際は「申請」です。
 出願と違い、登録要件の判断はされませんので、登録料を納付して手続きすれば延長されます。 
 
4.前所属事務所はいつまで商標権を維持できるか
 登録商標に無効理由(商標法3条や4条に定められた、登録を受けられない理由があれば、商標登録無効審判を請求することができます。
 審査で無効理由が発見されず、誤って登録された(過誤登録)された商標について、その登録を無効にすべきことを求めて、請求する審判です。
 
 しかし、この商標登録出願時には彼女の本名が「池田亜依」だったのであれば、商標登録無効審判を請求して、無効にするのは難しいかもしれません。

 ただし、3条1項8号には「著名な芸名」も含まれます。

 2000年から2004年ごろにかけて、彼女の所属するモーニング娘。は人気絶頂でしたし、また、彼女は脱退後にも未成年者喫煙やそれによる休業、復帰 などで芸能記事をにぎわしていましたから、出願時の09年2月11日には「著名」であったと判断される可能性もあります。
 加護亜依の名はアップフロントエージェンシー(現・アップフロントプロモーション)所属のころから使用しており、メインストリームに移籍してから使用し始めたわけではありません。
 もし本人の承諾なく出願していたのなら、過誤登録で(ダジャレじゃないですよ)、無効理由があることになります。 
 
 また、商標法50条には、不使用取消審判という制度があります。
 登録商標を3年以上指定商品又は指定役務に使用していなければ、商標登録の取消し審判を請求することができます。
 
 商標の価値とは、商標それ自体にあるのではありません。
 商標を使用したことによって、その商標に業務上の信用が蓄積して、上記の機能を発揮するようになった、その信用を保護するのです。
 ですから、3年も使用していなければ、せっかく蓄積した信用もなくなってしまうので、取り消すことを請求することができるのです。

 指定役務の内容を見ると、歌謡ショーや演劇など舞台関係の公演は、本人がすでにメインストリームに所属していない以上できません。
 所属当時の映像についての権利をメインストリームが保有していて、その上映会を開催すれば、登録商標の指定役務への使用に該当しますが、ビジネスとして成立するかどうか。
 赤字を出してまでやることではないようにも思えます。
 メインストリームが何らかの形で登録商標「加護亜依」を使用しないと、現在の存続期間の満了までに取消し理由が発生してしまいそうです。 
 
5.自分の名前は自分で登録しましょう
 この文章をお読みの方の大半は、プロダクションに所属して芸能活動を行う予定はお持ちでないでしょう。
 ですから、自分の本名を登録することについては、心配は要らないと思います。

 しかし、自分の(勤務する)企業名称や、商品名・サービス名について商標登録がされているかどうか、他人が類似の商標権を保有していないかどうかの確認は、一度なさった方がいいと思います。
 自分の会社名、商品名、サービス名をブランドとして育てていくためには、独占排他権である商標権の取得は不可欠です。

 そこで、自分が会社を設立したり、新商品新サービスの提供を始めたりする前には、その商標が登録要件を備えているか(独占排他権である商標権を取得できるか)、他人の類似の商標権が存在していないかどうか(その商標を使用できるか)を確認しておくことが重要です。 
 
 出願と登録にかかる費用は、指定商品(役務)が1つであれば、当事務所では総額12万円~15万円程度で(調査費込み)、登録されれば商標権は10年間存続します。
 1年分はその10分の1です。

 後から争いが発生すれば、場合によってはそれをはるかに超える費用がかかります。
 転ばぬ先の杖として、まずはお気軽に、ご相談ください。
 
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弁理士 砂川惠一
 
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