2012年3月23日金曜日

なぜ「サトウの切り餅」の佐藤食品工業は自己の特許発明を実施できないのか

(朝日新聞digital2012年3月22日20時29分より)


越後製菓が佐藤食品工業に対し、切り餅の「切り込み」の特許権に基づき、製造等差止と損害賠償を求めた事件で、知財高裁は佐藤食品工業に対し、製造販売差止と8億円の損害賠償金支払を命じました。

佐藤食品工業は「切り込み」の入った切り餅について、自己の特許権を持っているのに、なぜ製造販売を差止められ、損害賠償まで払わされるのか、よく分からない方も多いことと思います。

両社の特許発明の技術的範囲の詳細については煩雑になるので略しますが、知財高裁の事実認定では、佐藤食品工業の特許発明は、越後製菓の特許発明の技術的範囲に属する、と認められました。

それでは佐藤食品工業の発明には特許性がなかったのか、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、そんなことはありません。
越後製菓の発明を利用して、更に新たな技術的思想を創作したものと認められ、特許されています。

「利用」とは、「自己の特許発明を実施すると他人の特許発明等を全部実施することになるが,その逆は成立しない関係」をいいます。
そして、特許権の侵害とは「実施(製造販売等)の権原を有しない第三者が特許発明の発明特定事項をすべて実施をすること」等をいいます。

従って、他人の特許発明を利用する発明を実施することは、たとえその発明について特許権を有していても、侵害となり得るのです。

特許法第72条には、「 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。」と規定されています。
従って、どちらが先に登録されたかではなく、どちらが先に出願されたか、によって、優劣が決まります。
 出願の経過を整理すると、以下のようになります。

 
越後製菓
佐藤食品工業
出願日平成14年10月31日平成15年7月17日
公開日平成16年5月27日(平成17年2月10日)
審査請求日平成15年8月6日平成16年5月14日
早期審査請求
なし
あり
拒絶査定発送平成18年1月26日 
拒絶査定不服審判請求平成18年2月27日 
特許査定平成20年4月18日平成16年11月26日


佐藤食品工業は、越後製菓の出願より遅く出願していますが、越後製菓の出願公開より早く審査請求し、越後製菓が特許されるより早く特許査定を受けて特許権を取得しています。

それに対し、越後製菓は一旦拒絶査定を受け、かなり大幅な補正を経て拒絶査定不服審判の前置審査で特許査定を受けました。

佐藤食品工業は、越後製菓の出願の存在を知らないうちに審査を請求したので、実施可能性を十分検討していなかったと言われても仕方のない面があります。
このような事態を避けるために、一般には出願してから1年6ヶ月(強制的な公開時期)経過後に審査請求をします。
そうすれば、出願より前の、自分の発明の実施を制限する発明についての出願の有無を確認することができます。

一般の方は、こういう制度について違和感を持つことが多いと思います。
それは、特許制度の意味を勘違いしているからです。

一般には、特許制度は「発明者を守る」ことが目的だ、と思われています。

しかし、「発明者を守る」ことは、実は手段でしかないのです。

どういう「目的」のための手段なのか。

一定の期間発明者を保護することにより、新たに発明された技術を公開してもらうことが、特許制度の目的です。

企業等が発明をブラックボックスに秘匿して、ノウハウとして使っていると、発明が公開されず、重複研究や重複投資が行われ、技術の進歩が効率よく行われなくなります。

しかし、無償で公開させれば、すぐに模倣されてしまい、研究開発に費やした投資を回収できません。

そこで、発明公開の代償として、国家が独占排他権である特許権を付与するのです。

基礎発明が公開されるからこそ、改良発明が研究され、先行技術に対して新規性・進歩性があれば、改良発明も特許されます。
ただ、基礎発明の特許権者から許諾を得るなどしなければ、製造販売等ができないというだけなのです。

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2012年3月6日火曜日

変に端折ると表現が不正確になります

まず、共同通信の記事です。

国際特許、パナソニック2位転落 震災影響なし

 【ジュネーブ共同】世界知的所有権機関(WIPO)は5日、世界の企業などによる2011年の国際特許登録の出願件数を発表し、企業別では中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)が前年比958件増の2826件で首位となり、前年首位のパナソニックは2463件で2位だった。世界全体の出願件数は同10・7%増の18万1900件で過去最高。
 国別では米国が同8%増の4万8596件で首位、日本は同21%増の3万8888件で2位。WIPOは「東日本大震災の影響はない。日本は国内での特許登録から国際登録に軸足を移している」と分析した。
2012/03/05 22:58   【共同通信】
 
次に、時事通信の記事です。
 

国際特許、中国企業が首位=パナソニック2位に後退

 【ジュネーブ時事】世界知的所有権機関(WIPO)が5日発表した特許協力条約(PCT)に基づく2011年の国際特許出願件数(速報値)は、中国通信機器大手の中興通信(ZTE)が企業別で1位となり、2年連続首位だった日本のパクは3年ぶりに2位に後退した。総出願件数は前年比10.7%増の18万1900件と過去最高を更新した。
 ZTEの出願件数は2826件、パクは2463件。日本企業ではシプ(4位)、ト車(7位)もベストテンに入った。
 国別では、米国(4万8596件)が首位を堅持。次いで日本(3万8888件)、ドイツ(1万8568件)、中国(1万6406件)の順。前年比伸び率では中国が33.4%増、日本21.0%増と、アジア勢の伸びが目立った。(2012/03/05-22:16)


共同の「2011年の国際特許登録の出願件数」と、時事の「特許協力条約(PCT)に基づく2011年の国際特許出願件数」と、同じことを違う表現で書いていますが、我々知財業界の人間が読むと、共同の表現は体が痒くなります。

ちょっと調べれば分かることだと思うのですが、共同はなぜ時事のように正確なことばで書かないのでしょうか。
不思議です。

ちなみに、「東日本大震災の影響はない。日本は国内での特許登録から国際登録に軸足を移している」と本当にWIPOのコメントがあったかどうか知りませんが(∵時事は言及していない)、このコメントもおかしいですね。

日本国内の出願件数は減少傾向にあり、日本からのPCT出願は日本国にした出願とみなされますから、「軸足を移し」たのではなく、国際出願できない出願を絞り込んできただけでしょう。

東日本大震災の影響は、PCT出願に関してはなかっただけだと思います。

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