2014年6月18日水曜日

新聞記事の間違いと政策への疑問

今朝の朝日新聞の記事で、「社員の特許『会社のもの』」というものがありました。

まず、記事の問題です。

「政府は、社員が仕事で発明した特許をすべて『社員のもの』とするいまの制度を改め、条件付きで『会社のもの』と認める方針を固めた。」

現行の制度とは、仕事上行った発明(職務発明)であっても、「特許を受ける権利」は最初は発明をした社員のものである」というものです。

「特許を受ける権利」とは、その発明について「特許出願をすることができる権利」のことで、譲渡することができます。

企業は、発明が完成すると、社内規則や契約に基づき、発明をした社員等から、「特許を受ける権利」の譲渡を受け、特許出願をするのが一般的です。

出願書類の作成や手数料の支払いなどは、普通は発明をした社員のやることではありません。

従って、「仕事で発明した特許」が「すべて『社員のもの』」になどなっていません。

たしかに一般人にはわかりにくいかもしれませんが、だからといって、実態と大きく異なるような単純化をしていいということにはなりません。

思考の放棄=考える力の弱体化につながります。


次に、以下の政府方針です(報道が正しいとして論じます)。

「社員に十分な報償金を支払う仕組みがある企業に限って認める方向」 だそうですが、先日の「残業代ゼロ法案と同様、産業界からの要請とすれ違っています。

そもそも、新製品開発を業務として給与を支給されている人間が、発明が特許化されるごとに別途報償を受けることは、本当に正しいのでしょうか。
経理担当の社員が、きちんと決算をするたびにボーナスが出るとしたら、違和感を感じませんか。

そもそも、青色発光ダイオードやテプラなど、後に職務発明の対価を求める訴訟で、企業側が一定の金額を払わされているので、産業界は、いっそ初めから発明は企業のものにしてほしい、と言い出し、当然インセンティブも抑制したいと考えているはずです。

開発に当たり、設備も、材料も、共同研究者や補助者も、すべて会社が経費を負担しているのに、そして、開発業務のために給与を支払っていて、さらに、製品を売って利益を上げるためには、輸送・販売ルート、広告宣伝、材料の仕入れ、製品の在庫など、企業がリスクを負っていのに、何で成果が上がるとさらに報奨金を支払わねばならないのか、というのが企業の本音です。

なのに、 「十分な報償金を支払う仕組み」を求められるということは、企業側の要求とはずれています。
要するに、摩擦を増やす割りには、大した効果が上がらないのではないか、と思っているのです。

末端の多数の労働者の残業も削りたい産業界の要請に対し、「年収一千万円以上」を対象とする、という政策がずれているのと似ています。

誤解を避けるために付言しますが、「産業界の要請」と一致する政策がいい政策だ、と言っているわけではありません。
それなりの摩擦が生じるなら、それに見合った、或いはそれ以上の効果が上がらなければ、変更する意味がない、と言っているのです、念のため。

それにしても、金融政策はインフレ誘導なのに、消費税、TPP、残業代ゼロ、外国人労働者導入などのデフレ政策を次々と打ち出されると、まるでサイドブレーキを引いたままアクセルを踏んでいるように思えてしまいます。

ところで、発明は最初は社員のものですが、著作権は初めから会社のものとなります。
例えば新聞社員の場合、署名原稿であるか否かは関係ありません。

発明の場合は、発明者の名誉は、少なくとも担保されるようにしてほしいと思います。

 朝陽特許事務所所長 弁理士 砂川惠一 
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