報道によれば、ベネッセの顧客情報流出事件で起訴された元SEが、14日の初公判で、流出させた情報が「営業秘密」であることについて、「否認」したとのことです。
起訴された罪状は、「不正競争防止法」違反です。
具体的には、2条1項4号の、
窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)
に該当する行為を行った、というものです。
被告人は、個人情報を取得し、業者に売却したことは認めているのですが、持ち出した個人情報が、不正競争防止法条の「営業秘密」には該当しない、と主張しているわけです。
「営業秘密」について、2条6項には、以下のように規定されています。
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
前回(7月)にも書いた通り、情報が「営業秘密」に当たるかどうかについての判断基準は、以下の3要件を満たすかどうか、とされています。
1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2.事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
3.公然と知られていないこと(非公知性)
7月の段階では、報道から3要件は満たされているのではないか、と考えましたが、もう一度検討してみましょう。
今回持ち出された情報は、買い取って利用した企業があったわけですから、2.の有用性は、否定できないでしょう。
3.に該当しない、として否認するためには、 被告人が持ち出す前に、同じ情報が既に公然と知られていたことが必要です。
「公然知られた」というのは、世の中の人が皆知っていることは必要でありません。
秘密保持義務がない第三者に知られていれば十分です。
被告人が持ち出す以前に、同じ情報を誰かが持ち出して、売却などをしたことが証明できればいいわけですが、実際は、彼は相当量の情報を持ち出していますから、そのすべてが「公知」であったことを証明することは困難だと思います。
すると、1.の秘密管理性が問題となるのではないでしょうか。
実は、きちんと「秘密管理」することは、簡単ではありません。
守秘義務を定めた勤務規則等がある。
資料に「秘密」の表示が付される。
資料が保管されている部署に、入室制限、記帳義務などがある。
資料の複写・持ち出しが制限されている。
電子情報については、アクセス制限がある。
電子情報にアクセスする際に、パスワードが設定されている。
というように、多様な要件を満たさなければなりません。
たぶん、被告は、これらが不十分だったので、「営業秘密」の要件を満たしていない、従って不正競争防止法には違反していない、と主張するつもりではないでしょうか。
皆さんの会社でも、十分な秘密管理がなされているか、もう一度確認してみてください。
朝陽特許事務所所長 弁理士 砂川惠一
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